受動喫煙は環境基準の5000倍の致死リスクを持つ

受動喫煙は環境基準の5000倍の致死リスクを持つ

 

<受動喫煙にさらされる人の20人に1人は受動喫煙によって死亡する>

 

松崎道幸

 

(深川市立総合病院内科,日本禁煙推進医師歯科医師連盟運営委員)

 

 

 

【日常生活で出会う危険の「めやす」は10万分の1】

 

 わたしたちのいちばんだいじなねがいは、たべもの、のみ水、空気の安全です。からだに害のある物質がいっさい水や空気にふくまれないのが理想ですが、現実には無理です。そこで、今の社会では、この程度の危険ならしかたがないという「めやす」をきめて、健康を害する物質の量がその「めやす」をこえないように手をうつことにしています。この「めやす」とは、ある有害な物質がふくまれている空気、水、たべものを一生からだにとりいれつづけても、その有害物質が原因で、ガンなどの病気で10万人のうち1人以上死んではいけないというものです。たとえば、日本の水道水でも、40種類以上の有害物質の基準値が決められていますが、それらは一生飲んでもガンで死ぬ人が10万人中1人以下におさえることをめざす「世界保健機関(WHO)飲料水水質ガイドライン」の考え方にそうようにさだめられています[注1]

 10万人を一生追跡して1人の犠牲者が出た場合、「10万人あたりの生涯リスクは1人」と言います。先進国の保健専門機関では、10万人あたりの生涯リスクを1人以下におさえることが有害物質規制基準の常識となっています[注2]

 日常生活のリスクとしてよく引き合いに出されるのがレントゲン検査などの放射線被曝です。これについては国際放射線防護委員会(ICRP)が、放射線を取り扱う仕事にたずさわる人(レントゲン技師など)が、職業上の放射線被爆のために死ぬ確率が年間1万人のうち1人以下になるよう、また、一般市民への被爆が年間10万〜100万人に1人以下となるように対策をとるべきであると勧告しています[注3]

 このように、日常生活で出会う危険因子によって10万人に1人以上が殺されてはならないという基準は日本もふくむ先進国の常識となっています。ダイオキシンや電磁波の健康影響のありなしの判断も、生涯リスクとして10万人中1人以上犠牲者がでる可能性があるかどうかがめやすとなります。

 

【受動喫煙が多くの非喫煙者の命を奪うことは医学常識】

 

 受動喫煙はタバコを吸わない人に肺ガンや心筋梗塞をおこして命を奪います。世界で最初に受動喫煙が病気をおこすことを見いだしたのは日本の科学者、平山雄博士でした[注4]。 国立がんセンター疫学部長だった平山博士は1966年から26万人以上の日本人の死因と生活習慣の前向き調査を一般家庭の住民を対象におこないました。そのなかで夫が喫煙者であるとタバコを吸わない妻の肺ガンのリスクが1.5倍〜3倍高まることをつきとめました。この研究がきっかけとなり、受動喫煙問題はひろく社会の注目をあつめるようになりました。

 平山氏に続いて世界各国で膨大な疫学調査と臨床実験、動物実験、毒物学的研究が行われました。その成果を集大成したレビューが1992年に発表されました。発表したのはアメリカの環境行政の中枢、米国環境保護局(US−EPA)です。US−EPAはその報告書「受動喫煙の呼吸器への健康影響:肺ガンおよび他の呼吸器疾患」で、世界中で行われた30件の疫学調査をレビューし、米国では受動喫煙が非喫煙者の肺ガンのリスクを20%高めているとの結論[注5] に達し、環境タバコ煙を「ヒトにガンをおこすことが確証された物質known human carcinogen(Aグループ発ガン物質group A carcinogen)」と認定しました。ちなみにラドン・ベンゼン・アスベストもAグループ発ガン物質です。

 おなじころ米国心臓協会(AHA)は1991年にAHA機関誌に発表した受動喫煙と心臓病のレビュー[注6]の結論を受けて 「環境タバコ煙と心疾患」と題した声明を発表しました[注7]。 この声明でAHAは非喫煙者の心筋梗塞死のリスクを30%高める受動喫煙は虚血性心疾患の重大な危険因子であると断言し、受動喫煙被害をなくすために力をつくすと宣言しました。

  受動喫煙と病気の関係については、遺伝毒性試験・動物実験・臨床実験・疫学調査の各分野にわたり多面的な解明が行われてきました。その結果いまや受動喫煙が肺ガンや心筋梗塞死をおこす重大な室内空気汚染因子であることは、世界保健機構(WHO)[注8][注9]、米国保健福祉省、国立ガン研究所(National Cancer Institute)、 公衆衛生長官、米国医師会、英国医師会、米国心臓協会、米国小児科アカデミー、米国食品医薬品局(FDA)など世界中の指導的な医学医療団体や公的機関の一致した認識であり科学常識となっています。

 1994年、ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに「タバコのヒューマンコスト」と題した総説[注10]が掲載されました。この他誌引用率(インパクト・ファクター)世界一の医学専門誌にはしばしばタバコ問題の論文や総説が掲載され、能動喫煙も受動喫煙も健康被害をもたらすことが確固とした医学常識であることを豊富な医学データで証明しています。この総説は能動喫煙・受動喫煙の健康影響を解説したもので、「タバコはアメリカ国民に悲しむべき犠牲と損害をもたらしている。麻薬と同じ習慣性を持つこの商品は、われわれの社会のあらゆる構成員の命をむしばんでいる。その魔の手はとりわけこどもと女性、そしてマイナリティーをターゲットにしている。タバコの健康被害と経済的被害はじつに大きい。このタバコ使用のもたらす悲劇をすこしでもへらすためには、タバコCMの完全禁止、公共施設の禁煙化、徹底的な市民教育、タバコ税の値上げが必要である」と提起しています。受動喫煙の健康被害についても、US−EPAの報告の立場を全面的に支持した内容となっています。

1992年のUS−EPA報告後も、受動喫煙の健康影響に関する多くの調査研究が発表され、受動喫煙が多数の病気の原因となる証拠がますます積み重ねられました。この間の受動喫煙研究の進歩をレビューしたのが1997年2月に発表されたカリフォルニア州環境保護庁(CAL−EPA)による「環境タバコ煙曝露のもたらす健康影響」と題する400ページをこえる報告書です[注11]。CAL−EPA報告では、US−EPA報告の内容がさらに豊かに強化され、また副鼻腔ガンと乳幼児突然死症候群が受動喫煙との関連が確実な疾患に追加され、受動喫煙との関連が確証された病気は12種類となりました。また子宮頚ガンなど6種類の病気が受動喫煙関連疾患の候補リストに加えられました(表1)。


表1 環境タバコ煙曝露がもたらす健康影響

 

 

 

確実なもの

 

可能性のあるもの

 

 

発育障害

 

低体重児出生

未熟児

乳幼児突然死症候群

 

 

自然流産

認識と行動の障害

 

呼吸器疾患

 

急性下気道感染症(小児)

気管支喘息発病・悪化(小児)

慢性呼吸器症状(小児)

中耳炎(小児)

目・耳の刺激症状(大人)

 

気管支喘息悪化(大人)

嚢胞繊維症悪化

呼吸機能低下

 

発ガン作用

 

肺ガン

副鼻腔ガン

 

子宮頚ガン

 

心疾患

 

心筋梗塞死

冠状動脈疾患罹患率

 

 

【ふつうの家庭や職場での受動喫煙が非喫煙者の命を奪うことがわかった】

 

 今までに受動喫煙と確実に関連する病気が12種類見つかりましたが、大事なことは、これらのことが一般の家庭やオフィスを調査して見いだされたことです。受動喫煙の度合いが特別に高度の家庭や職場だけを選んで、家庭や職場で受動喫煙をこうむっていない人と比べたわけではありません。結婚した相手が毎日平均20本タバコを吸う、あるいは幾人かの喫煙者と一緒に仕事をしているという、ふつうの市民生活のなかでの受動喫煙が肺ガンや心筋梗塞死の危険をごく控えめな見積もりでも20〜30%増やしているのです。

 

【受動喫煙による死亡の生涯リスクは10万人あたり5000人】

 

 これまでをまとめると、

㈰空気や水を汚染する有害物質の許容基準は生涯リスクとして10万人あたり1人以下であることが先進国の常識である、

㈪タバコを吸う人と結婚する、あるいはタバコを吸う人と一緒のオフィスではたらくというふつうの市民生活における受動喫煙により肺ガンや心筋梗塞で死ぬリスクが少なくとも20〜30%高まる、となります。

 つぎに日常生活でふつうにみられる受動喫煙が10万人の非喫煙者のうち何人の命を奪うか、すなわち受動喫煙死の生涯リスクが10万人あたり何人になるかを示します。

 CAL−EPAは、受動喫煙によっておきることが確定的な病気12種のうち、主な3つの病気の生涯リスクについて、その報告書(草案)で受動喫煙にさらされる者のうち何パーセントが死亡するかについて試算[注12]を行っていますので紹介します。

 非喫煙者の心筋梗塞による死亡は受動喫煙により1.3倍高まります。非喫煙者の心筋梗塞死亡率をもとに計算した結果、受動喫煙にさらされる非喫煙者を一生観察するとおよそ1〜3%が受動喫煙が原因となった心筋梗塞で死にます。実数でみるとアメリカ全体では年間5万人の非喫煙者が受動喫煙による心筋梗塞で殺されています。受動喫煙による肺ガン死は20%増加し、受動喫煙にさらされている非喫煙者の0.7%が肺ガンで死にます。受動喫煙は乳幼児突然死のリスクを3.5倍増やしますが、これは家庭で受動喫煙にさらされている赤ちゃんの0.1%がそのために突然死する事を意味します。この3つの病気を合計すると、受動喫煙にさらされている非喫煙者の1.8〜3.8%、つまり10万人あたり1800人〜3800人が受動喫煙によって殺されていることになります。3つの病気だけでも、生涯リスクとして非喫煙者10万人あたり1800〜3800人がタバコの煙という有害物質汚染の犠牲者となっているのです。10万人あたりの死亡者が1人以下という環境汚染物質の許容基準を1000倍以上オーバーしている物質は受動喫煙のほかにはありません。

 しかも上に示した受動喫煙のリスク比は、真のリスクの大きさよりかならず小さく見積もられています[注13]。疫学調査では環境タバコ煙曝露「なし集団」と「あり集団」の疾患リスクを比べて受動喫煙が病気のリスクを増やすかどうかを判定します。しかし環境タバコ煙に「まったく曝露されていない集団」を設定することはきわめてむずかしいのです。なぜなら家庭、職場、公共の場のいずれでも受動喫煙のない非喫煙者はほとんどいないからです。けっきょく環境タバコ煙曝露「あり集団」の健康リスクは、真の意味での受動喫煙「なし集団」よりも何割かリスクの高い環境タバコ煙「軽度曝露集団」のリスクを1として算出されることになるため、真のリスク値よりも必ず低い値となります。

 ですから、もし受動喫煙死亡の真の生涯リスクが前に示した値よりも2割大きくなるとすれば、10万人あたりの死亡者は最高4千数百人となり、これに残りの受動喫煙関連9疾患による死亡を加えるなら、10万人あたりの生涯リスクは5000人をこえるでしょう。受動喫煙にさらされる非喫煙者の10万分の5千つまり20人に1人は受動喫煙によって殺されるのです(表2)。

 

                  表2  10万人あたりの生涯リスク(人)    

喫煙で早死にする[注14]   50,000                  
   喫煙による肺ガンで死ぬ    20,000                 
   受動喫煙で早死にするd           5,000                      
      受動喫煙による    
        心筋梗塞で死ぬa           3,000                      
        肺ガンで死ぬb         700           
        乳幼児突然死c        100               
              早死に(a+b+c)        3,800                      
アスベスト使用住宅に住み肺ガン死           10                 

環境汚染物質の許容基準   

          1            
胸部間接撮影(1回)で肺ガンになる[注15]e                0.5       
胸部間接撮影(1回)で白血病になる[注15]e                  0.05     

       d=[a+b+c+他の9受動喫煙関連疾患死亡者数]×1.2

       e胸部直接撮影のリスクは間接撮影のおよそ10分の1

 

  

 

 

 

【レントゲン写真5万枚で日常生活の受動喫煙とおなじリスク】

 

 これまでの検討で、受動喫煙が10万人中5000人の命を奪うケタはずれの致死的環境汚染であることがわかりました。ところである物事が本当に危険かどうかを判断するためには、その危険の大きさの絶対値だけでなく、他の危険因子と比べてどうなのかも知る必要があります。受動喫煙とレントゲン検査・ディーゼルエンジン排気ガス・アスベストの危険度とを比べてみます。

 胸部X線写真(直接撮影)を一枚とると、将来およそ百万分の1の確率で肺ガンになります。これは百万人に一枚ずつ胸部X線写真をとると、将来そのためにひとりが肺ガンになるということです。能動喫煙者の10〜20%は肺ガンになりますから、1日1箱程度の喫煙は、毎日10枚、生涯で10万枚〜20万枚の胸部X線写真分のX線曝露と等しい発ガンリスクをもたらします。受動喫煙と同じ死亡リスクをこうむるためには一生涯で5万枚の胸部X線撮影を受ける必要があります。そのためには毎日2〜3枚づつX線写真を撮らなければなりません。

 

【日本最悪の大気汚染地域=環状7号線の真ん中も危ないが、タバコの煙のただよう部屋はもっと危険】

 

  ディーゼルエンジンの排気ガスも肺ガンの原因になります。受動喫煙よりもあの黒い排気ガスの方がずっと有害であるに違いないと考えている人も多いかも知れませんがどうでしょうか。岩井和郎氏[注16]によれば、大都会の交通の激しい地点でディーゼルエンジンの排気ガスにさらされた場合の肺ガン死の生涯リスクは10万人あたり300人、いっぽう受動喫煙による肺ガン死の生涯リスクは10万人あたり700人です(表3)。喫煙者のいる茶の間や事務室の方が大都会の交差点の2倍から3倍も肺ガン死の危険が多いのです。こう言ったからといって、ディーゼルの排ガス問題よりも受動喫煙問題の方が大事だと主張しているのではありません。ディーゼルエンジンの排ガス濃度は地方都市の室内でさえ、許容基準を数十倍も上回っているのですから、できるだけ早く対策を講ずる必要があります。ここで言いたいのは、受動喫煙の健康被害の問題をその重大さにふさわしいとらえ方で理解していただきたいということです。

 

表3 ディーゼル排ガスによる肺癌生涯リスク

暴露濃度

推定該当環境

生涯リスク
μg/m3  (10万人あたり)
1 12(5〜30)
2   郡部 25(10〜59)
5   地方都市室内 61(26〜148)
10   東京屋内 123(52〜295)
15   東京路上 184(77〜443)
大都市の交通の激しい地点 300
(受動喫煙による肺がん 700

(岩井和郎氏試算[注16]を参考に作成)

 

【受動喫煙の死亡リスクは立入禁止アスベスト汚染ビルに1000年間住むに等しい】

 

 たくさんすいこむと肺ガンや胸膜中皮腫という悪性の病気をおこすため使用が禁止されたアスベスト(石綿)の曝露濃度と悪性腫瘍発生リスクを表4に示しました。現在のところ一般の住宅地域での汚染レベル[注17]が生涯リスクとして10万人あたりおよそ1人となっています。イギリスなどの先進国では室内気のアスベスト繊維濃度が0.01本/cc をこえた建物は立入禁止命令がでます。そのような建物に一生住み続けると10万人中200人が肺ガンや胸膜中皮腫で死にます[注18]。これは受動喫煙の25分の1の生涯死亡リスクですから、アスベスト汚染で立入禁止になったビルに1000年以上住み続けないと受動喫煙と同じ10万分の5000という生涯死亡リスクにとどきません。

 

 

       表4 アスベスト繊維濃度と悪性腫瘍発生の生涯リスク(10万人あたり)(松崎試算)


アスベスト線維濃度 悪性腫瘍発生数      

対応環境

(>5μm、本/cc)  (肺癌×5〜10)  対応するタバコ煙曝露  

0.00006 1.04-2.08
住宅地[注17] | 0.0002 2.33-4.606
0.001 11.52-23.03
0.002 23.03-46.06
立入禁止(英) 0.01 115.2-230.3 [注18] 受動喫煙による肺癌
内装破損室内 0.02 230.3-460.6  (700/10万・生産)
石綿作業上限 0.1 1151.5-2303.0
(現在)  0.2 2303.0-4606
20. ・・・・・・
石綿作業(昔) 10〜100 (5千〜2万)      
(米1.8万、日9千/10万・生涯)


 

 

【環境基準の5000倍の死亡リスクをもつ受動喫煙をなくするために今すぐ法的規制が必要】

 

 人生の大半は室内ですごしますが、タバコを吸う人と同じ室内に暮らすと環境基準の5000倍の致死リスクをもった空気を吸わされることがわかりました。先進国社会で環境基準の5000倍も危険な環境汚染がほったらかしにされているのです。受動喫煙問題は喫煙者の「喫煙権」と非喫煙者の「嫌煙権」のぶつかりあいなどではありません。生存権の問題なのです。受動喫煙にさらされている人の20人に1人がタバコ産業の商品によって殺されます。ある産業の商品を適正に使用した消費者の2人に1人、その消費者の周辺にいる人の20人に1人を死亡させることがわかれば、その商品の販売も製造も禁止されるでしょう。また販売禁止を待つまでもなく、その商品の使用者以外に一切害がおよばないよう完全な被害防止対策をとるよう要求するのが常識というものでしょう。

 もし環境基準に合うように室内のタバコの煙を減らそうとするなら、現在の室内のタバコ煙濃度を5000分の1以下に薄めることのできる換気設備が必要ですが、そのような換気が技術的にもコスト的にも不可能なことは言うまでもありません。換気系統の独立した完全分煙もしくは建物全体の完全禁煙を速やかに進めるための法的措置が絶対に必要です。これほどの深刻な環境汚染問題の解決を、各々の公共施設や民間のオフィスにはたらく喫煙者と非喫煙者の相互理解と話し合いという自主性にまかせるというやり方で実現することはできません。日本でも毎年すくなくとも数千人が受動喫煙により命を奪われていると考えなければなりません。受動喫煙被害からの救済は急を要するのです。

 スパイクタイヤはあれよあれよと言う間に禁止されました。スパイクタイヤ粉塵が健康を害すると予見されたからです。学校の焼却炉はあっという間に廃止されました。わずかでもダイオキシンを発生させることが将来取り返しのつかない病気をもたらすと予見されたからです。電磁波の健康被害が予見されるから携帯電話の中継アンテナの設置に強い反対運動がおきています。

 それにひきかえ、受動喫煙問題はどうでしょうか?受動喫煙が多くの人の命を奪うことは、疫学調査でも、臨床研究でも、動物実験でも、遺伝毒性試験でも、ほかの環境汚染物質に例を見ない質の高い研究と膨大なデータにより証明済です。すくなくとも1992年のUS−EPA報告の時点で科学的証明が完了しています。世界中の医学専門機関も、保健医療専門機関も受動喫煙被害をなくす対策の必要性を強く勧告してきました。それなのに、残念ながら日本では、現在わが国で直面している最大の環境汚染問題にふさわしい関心も危機感も持たれていません。これ以上の対策の遅れは犯罪といっても言い過ぎではありません。いますぐ環境基準の5000倍の致死作用を持つ受動喫煙の完全な規制を行うことが必要です。

 

【結論】

 

 この小論の結論は明白です。

 

㈰受動喫煙が肺ガン・心筋梗塞など12疾患の原因となることは、確立された医学常識である。研究の進歩により受動喫煙の健康影響がさらに大きいことが証明されるであろう。

㈪日常生活で出会う受動喫煙による生涯死亡リスクは10万人に対し5000人である。

㈫他の環境危険因子とリスクを比較した結果、受動喫煙対策は緊急かつ最優先の課題であることが明らかになった。

 

 対策が1年遅れるごとに、毎年数千人の非喫煙者が受動喫煙の犠牲者となります。やろうと思えば多くの命が救えます。

 結びにかえて1986年の米国厚生長官報告[注19]の最終結論を示します。

 ⋯喫煙者と非喫煙者を同一空間で分離するだけでは非喫煙者の環境タバコ煙曝露を若干減らせても、完全になくすることはできない。室内の換気を良くしてもタバコ煙は減らせない。非喫煙者を環境タバコ煙から守る唯一確実な手段は、非喫煙者のいる同一空間における喫煙を完全になくすることである。いまこそ環境タバコ煙を環境中の有毒物質と認識し、一般市民や労働者をその健康被害から守らなければならない。労働者を環境タバコ煙から守ることは雇用主の義務であり、一般市民を環境タバコ煙から守ることはビル管理者の責任である。家庭においてこども達が環境タバコ煙にさらされないようにすることは親に課せられた責任である。人の生活する環境からこの健康破壊物質をなくすることはすべての市民の義務である。

 

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【参考文献】

 

[注1]中村磐男(聖マリアンナ医科大学衛生学教室、元WHO環境保健部):新しい“WHO飲料水水質ガイドライン"-その概要、改訂の経緯および今後の課題、別冊医学のあゆみ(メディカルトピックス第25集)、1996.p.162.

⋯ガイドライン値⋯は、IPCS、FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会(JECFA)など国際的に評価された最新情報が基礎となる。それらの毒性データから体重60Kgの人が毎日2Lの飲料水を摂取続けたとしても健康影響のない値、発癌性物質では一生摂取してもその物質が原因で癌で死亡する確率が10万分の1以下に抑えられる値が設定される。(下線引用者)

 

[注2]Repace JL  Lowrey AH(1992):Issues and answers concerning passive smoking in the workplace:rebutting tobacco industry arguments.Tobacco Control 1:208-219.

⋯民間航空便の機内におけるETS(環境タバコ煙)曝露のリスクの有意なことは米国運輸省の委託を受けた Nagdaらの研究および米国国立ガン研究所・米国環境保護局・大学の学際的研究チームの共同研究により検討されてきた。運輸省研究によれば、20年間勤続の航空乗務員の職業的ETS曝露による生涯リスクは10万分の12から16と推定された。このリスクは環境保護局が決めた空気・飲料水・食物における発ガン性汚染物質の基準における「許容可能なリスク」の最高レベルよりも1桁大きい。

GlanzとParmley は受動喫煙と心疾患の関連を疫学的、生理学的、生化学的に検討した総説を発表した。彼らはさまざまな地域で行われた11の疫学調査結果から、喫煙者と同居する非喫煙者が虚血性心疾患あるいは心筋梗塞によって死亡するリスクが30%増加することを見いだした。しかも大規模な調査ではETS曝露量とリスクの増加の間に量反応関係のあることがわかった。これらを論拠にしてアメリカ心臓協会心肺疾患救急医療委員会は最近ETSが年間4万人以上の死亡者をもたらす「予防可能な心疾患の主要な原因」と認定した。国立労働安全保健協会の研究者はETSによる心疾患の超過死亡の生涯リスクは100人につき1〜3人と推定し、有害環境汚染物質による超過死亡の許容ラインとされている10万人につき1人と比較すると極めて大きなリスクであることを示した。(下線引用者)

 

[注3]放射線保健学<付>医療情報システム(生涯教育テキスト第5集)、日本放射線技師会、1990,p.87.

⋯国際放射線防護委員会勧告の精神と解説.B.勧告の要約⋯ <作業者に関する線量当量限度>⋯(2)高い安全水準の職業とは、職業上の危険による年平均死亡率が10-4を超えない職業である。 ⋯<公衆の個々の構成員に対する線量当量限度> ⋯一般大衆に対する公共輸送機関などによる事故死などのリスクの容認できるレベルは、職業上のリスクより1ケタ低く、年当たり10のマイナス5乗〜10のマイナス6乗の範囲であろう。

 

[注4]Hirayama T(1981) Nonsmoking wives of heavy smokers have a higher risk of lung cancer:A study from Japan.Br Med J 282:183-185.

 

[注5]U.S.Environmental Protection Agency(1992). Respiratory Health Effects of Passive Smoking:Lung Cancer and Other Disorders. Office of Health and Environmental Assessment, Office of Research and Development,U.S.Environmental Protection Agency, Washington,DC.

⋯受動喫煙は成人の肺ガンの原因となる。ETS(環境タバコ煙)は証拠の重さ解析の結果、EPA(環境保護局)の定義によるA級発ガン物質(ヒトに対する明確な発ガン物質)に該当する。

⋯米国の男女非喫煙者(禁煙者を含む)のうち年間3000名がETSによる肺ガンで死亡している。この推計値は統計学的および理論モデル上の不確定性をはらんでおり、真実の値はこれより増減しようが、本解析に用いた諸仮定は実際のリスクを過小評価するよう設定されている。本推定値の信頼性は中等度から高度である。

⋯ETS曝露歴のある35才以上の米国民のうち年間3000人がETS曝露による肺ガンで死亡するというもっとも信頼できる推定値は、喫煙者と結婚した生涯非喫煙女性を対象とした米国の11件の調査データから得られた。この推定値は米国のデータをもとに算出されたため信頼性はさらに高まっている。予想される喫煙習慣の誤分類バイアスの補正と配偶者以外に由来するETS曝露の影響を調整するために一定の数学モデルを用いる必要がある。喫煙者誤分類バイアスを補正した後のリスク比は米国では1.19だが、バックグラウンドのETS曝露を補正したのちのリスク比は1.59となった(配偶者以外のETS曝露によるリスク比は1.34)。⋯米国厚生長官は、1985年現在喫煙が米国の総死亡の6分の1、男性肺ガン死の90%以上、女性肺ガン死の80%以上の原因となっていることを指摘している。しかしタバコ煙の害を受けているのは喫煙者だけではない。パフのあいだにタバコの先から排出されるETSの主成分である副流煙は、主流煙中に見いだされるすべてのヒトおよび動物に対する明確なあるいは可能性のある発ガン物質を同様に含んでいる。これらの発ガン物質の受動喫煙者への曝露濃度は様々だが、概して喫煙者よりずっと低い。しかしそれでもガンによる超過死亡が生ずることは生物学的に妥当なことである。

 肺ガンと能動喫煙量の量反応関係は低喫煙量域まで明確に存在することが確立した事実となっており、これに立脚するなら受動喫煙によっても同様に肺ガンが発生することは明かである。一般家庭と職場にETSが広く存在し、非喫煙者の体内にETSが吸収されていることは、エアサンプルおよびニコチンやコチニンなどの生体マーカーの測定により十分に確認されている。次に問題となるのは、一般住民においてETS曝露が肺ガン発生を増やすという直接データが存在するか否か、またそれが市民の健康にどれほどの悪影響を与えているかということである。本報告では通常のETS曝露下で実施された30件の疫学調査成績をレビューし解析してこの疑問に答えている。ETS汚染はきわめて広範に生じており、厳密な意味でのETS曝露のまったくない集団を設定することは難しい。したがってこれらの研究では、ETS曝露の高度な集団と軽度な集団を比較するという手法を用いている。つまりタバコを吸う夫を持つ非喫煙女性と、タバコを吸わない夫を持つ非喫煙女性を比較することが一般的なやり方である。検討対象を別の集団(たとえば非喫煙男性、あるいは長期間禁煙者)あるいは現在の家庭以外のETS曝露(たとえば職場、こども時代の家庭での曝露)を対象とした研究もあるが、それらの調査件数と対象症例数は少ないため、本報告の検討対象から除外した。女性の非喫煙者集団を用いた調査がもっとも多くの均質なデータベースを形成しているため、ETS曝露が肺ガンを発生させるかどうかの検討解析に最適であると考えられた。本報告では女性の非喫煙者の成績をすべての非喫煙者に適用することを前提とした。

 ETS曝露が通常の生活レベルにあり、比較する両グループの家庭外(すなわち職場など)のETS曝露度が等しいならば、配偶者の喫煙に由来するETS曝露のもたらす肺ガンの超過リスクはずっと小さいものとなる。さらに非喫煙者の肺ガンリスクはもともと比較的低く、標本集団が小さいため統計学的パワー(真の関連を見つけだす確率)のきわめて小さい調査研究が多くみられた。標本サイズが小さく高濃度曝露成績が少ない上に、調査に内在する種々の問題点のために、存在するはずの関連を見つけだすパワーが低くなっていた。したがって本報告では、データ解析を数種類の手法を用いて行った。喫煙習慣の誤分類から生ずるバイアスを考慮した相対リスクの下方修正を行った後、個々の調査毎にそれぞれデータ全体の解析、最高の曝露度グループに限った解析、曝露度と肺ガン発生度の量反応関係の解析を行い、ETSと肺ガンの関連の強さの評価を行った。次に異なる調査間のデータを統計学的に結合する処理を行い、ETSとの関連のあるなしにかかわらず、国別にデータをプールし、ETSと肺ガンの関連の有無を検出する感度を向上させて解析を行った。これらは調査デザインや実施状況の違いを考慮にいれず標本サイズという量的な面でのみ評価と重み付けを行ったものである。最後に種々のバイアスの評価検討とETSの肺ガン誘起性を証明する上での利用可能性を検討する質的解析を行った。これらの質的検討をもとに全調査を4群に分け、各々につき統計学的解析を行った。

 上記のやり方で行った解析すべてにおいてETS曝露が肺ガン発生と関連があることが強く指示された。30件の疫学調査中9件において、すべてのグループで、配偶者の排出するETSへの曝露が肺ガン発生を増加させるという成績が得られたが、これは偶然の結果とは考えられなかった(P<10-4)。配偶者によるETS曝露のもっとも高度なグループに限ると、ETS曝露度別データの示されている17件の調査すべてで肺ガンリスクの増加していることが判明した。うち9件では5%の危険率でこの増加が統計学的に有意だった。関連の強さは必ずしも強いものではないが、これらの成績が偶然に生じたとは考えられなかった(P<10-7)。ETS曝露度と肺ガンリスクの量反応関係を検討した14件の調査で有意な量反応関係が証明された(P<10-9)こともETSと肺ガンの関連を強く示すものであった。

 

[注6]Glanz SA Parmley WW : Passive smoking and heart disease : epidemiology, physiology, and biochemistry. Circulation  83 : 1-12,1991

<要約>環境タバコ煙(ETS)が心臓病死のリスクを高めることを示す証拠の量と内容は、1986年に公衆衛生長官がETSが健康な非喫煙者に肺ガンをおこすと断定した際の証拠に共通するものがあります。さまざまな地域と条件のもとで行われた10件の疫学調査から、喫煙者と暮らす健康な非喫煙者が虚血性心疾患や心筋梗塞でなくなるリスクが約30%高くなることがわかりました。ETSに曝露される度合いがひどくなるほど心臓病で死ぬリスクが高まることも、大規模な調査によって明らかにされました。

 こうした疫学的データは、ETSが血小板のはたらきをくるわせ、動脈内皮細胞を傷つけて心臓病の危険を高めることを証明した数多くの病態生理学的、生化学的実験成績により裏付けられました。さらに、日常生活のレベルのETS曝露によっても酸素をからだに取り込んで利用するはたらきが大きく損なわれるために、健康な人も心臓病を持つ人もその運動能力がいちじるしく落ちることが明らかになっています。ETSはミトコンドリアを傷害して細胞の呼吸作用を妨げることが動物実験で示されています。ETSにふくまれる多環系芳香族炭化水素が動脈硬化を速めていること、また動脈硬化病変を新しく発生させている可能性があることも示されています。

 注目すべきは、ETSが心臓に悪影響を及ぼす度合いが、喫煙者と非喫煙者で異なることです。非喫煙者は喫煙者よりもETSによって悪影響を受けやすいようです。これはおそらく、最初、低濃度のETSの有毒成分に対して過剰な生理反応が起こり、ETSへの曝露が高まり、飽和状態、すなわち喫煙者になると、逆にタバコ煙の有害成分に長く曝されることで、一種の適応が生ずることによると考えられます。いずれにせよ、心臓病と受動喫煙の関係を考えるときに、ETSへの曝露度を「紙巻きタバコ何本にあたるか」に換算して、能動喫煙が喫煙者に及ぼす健康影響データを受動喫煙者に当てはめることは正しくありません。

 これらの研究結果により、心臓病がETS曝露によって起こる重大な病気のひとつであることがわかりました。疫学研究の結果とETS曝露で生ずる生体反応の証明、さらにETSの成分が心臓血管系に重大な障害を与えることが生化学的に確認されたことから、ETSは心臓病をおこすとの結論が得られました。ETSにより心臓病死のリスクが30%増すということは、ETSによる肺ガン死の10倍の人命がETSによる心臓病で奪われるということであり、毎年受動喫煙のために亡くなる人の数を推定53000人に押し上げる主要因となっています。この結果、今日アメリカでは、能動喫煙、アルコールに次いで受動喫煙が予防可能な死亡原因の第3位となっているのです。

 

[注7]Aubrey E.et al.(1992). Environmental Tobacco Smoke and Cardiovascular Disease. Circulation.86:699-702.

⋯アメリカ心臓協会心肺疾患および救急医学委員会は、環境タバコ煙が心疾患の発症と死亡にかんする予防可能な主要原因であるとの結論を出した。本委員会は非喫煙者に対する環境タバコ煙曝露をなくするためのあらゆる措置や努力を強く支持する。このためには、環境タバコ煙を環境汚染有毒物質と規定し、労働者や一般市民をこの健康破壊物質から守る対策を推進することが必要である。アメリカ肺協会の依頼により行われた1989年のギャラップ調査によれば、非喫煙者の86%は環境タバコ煙が有害であると考え、77%は非喫煙者のいる場所で喫煙者は喫煙を控えるべきであると考えていることが明らかになった。そうであっても、一般市民に環境タバコ煙が非喫煙者に心臓病をおこすことを教育する計画にさらに力を入れ、このことをアメリカ心臓協会の主要任務のひとつとしなければならない。タバコの煙のない家庭、ビル、職場を実現することはわれわれの社会の達成すべき目標のひとつである。

 

[注8] WHO1997年世界禁煙デー・アドバイザリー・キットより

⋯環境タバコ煙(ETS)は非喫煙者の健康も損ねます/ETSは喫煙者が吸い込むタバコの煙と本質的に同じ発ガン物質や有毒物質をふくんでいます。ETSを強制的に吸わされると、健康な非喫煙者にも肺ガンなどの病気がおきます。さらにETSは喘息を悪化させ、血の流れを悪くし、気管支炎や肺炎も引き起こします。タバコを吸う親のいる家庭のこども達は、呼吸器の症状が増え肺炎や気管支炎、中耳炎にかかりやすくなり、肺の働きも悪くなります。ETSは小児喘息を新たに発症させ、喘息発作を重くします。妊娠中母親がタバコを吸ったり、生まれてからETSにさらされた乳幼児は乳幼児突然死症候群で死ぬ危険が大きく増えます。

 

[注9] WHO1992年世界禁煙デー・アドバイザリー・キットより

WHO事務総長中嶋宏博士のメッセージ/タバコを吸う労働者は、みずから吸うタバコの煙と職場の空気汚染物質との両方にからだをむしばまれています。それだけでなく受動喫煙により職場の同僚の健康をもおびやかしています。数十年にわたる努力により労働環境は徐々に改善されてまいりました。このような努力がつづくかぎり、はたらくひとびとは職業病の脅威からまもられるでしょう。この社会進歩がタバコによってそこなわれてはなりません。

 生活の糧(かて)をえるためにはたらかなければならないひとびとが、その職場で有害無益な習慣により健康をおかされることがあってはなりません。雇用されている者は職場の環境をかえる権限をもたないのがふつうです。とくに自分と家族の生計をたてるためにはたらいている職場において受動喫煙から身をまもることはほとんど不可能です。

 労働は人に生活の糧をもたらすだけでなく創造性をたかめる役割ももちます。おとなはおきている時間のおおくを労働にあてます。人には健康的な環境で、できるかぎりきれいな空気を吸ってはたらく権利があります。

  仕事仲間を自分のタバコの煙でくるしめないことは礼儀のひとつですが、そうならないように規則をさだめなければならないこともおおいのです。同様に従業員を受動喫煙などの健康被害からまもることは雇用主の義務であります。いままでにおおくの法律や判例がだされ、このような義務をはたすことをもとめています。しかも、職場での喫煙が従業員に病気をもたらすだけでなく、雇用主にとって経済的な損失をもたらすことも法的規制の推進される根拠となっています。つまり、タバコを吸う者は欠勤がおおく、労働災害や失火をおこす確率がおおきいためです。タバコによる火災は農業地帯ではまことに切実な厄災であります。

 WHOは、これまでに、各界の指導者と個々の市民に禁煙をよびかけ成果をおさめてきました。今年の5月31日は、はたらく者と雇用主にたいしてよびかけたいと思います。WHOとともに今年の禁煙デーの成功を準備しましょう。そして、より安全で健康的な職場をめざして努力しようではありませんか。

 

[注10]Bartecchi CE  Mackenzie TD  Schrier RW(1994). Department of Medicine, University of Colorado School of Medicine:The Human Costs of Tobacco Use.New England Journal of Medicine. 330:907-912 & 975-980.

⋯1992年の環境保護局(EPA)の報告からも明らかなように、受動喫煙の影響を抜きにしてタバコの問題点や弊害を考えることはできなくなりました。環境タバコ煙は、喫煙者の吸い込む主流煙とタバコの先からたちのぼる副流煙のまざったものですが、ほとんどは副流煙です。火のついたタバコからは喫煙者に吸い込まれる主流煙よりも副流煙の方がずっと多く出ます。主流煙にも副流煙にも同じ種類の空気汚染物質が含まれています。

 肺の奥にはいりこんでそこにとどまりやすいこまかな粒子は副流煙の方にとても多くふくまれています。環境タバコ煙は部屋の中の空気をよごす一番の原因です。タバコを吸わない人もこのようにしてタバコの煙を吸わされます。タバコの煙には、ここまでなら病気をおこさないという安全量はありません。ですからタバコを吸わない人にもタバコを吸う人と同じ病気のおきるおそれがあります。EPAは、タバコの煙を、人間に肺ガンをおこすことが確かめられた発ガン物質、つまり「EPA認定Aグループ発ガン物質」と認定しました。

 最近受動喫煙が心臓病をおこすことがはっきりしました。年間5万3千人のアメリカ市民が受動喫煙で死ぬと推定されていますが、そのうち3万7千人は心臓病によるものです。グランツ氏とパームリー氏は10件の疫学調査をまとめ、受動喫煙の度合いがはげしくなるほど心臓病がふえることを証明しました。タバコを吸う人といっしょにくらす非喫煙者は、心筋梗塞などの虚血性心疾患で死ぬ危険が30%もふえる可能性があります。

 狭心症をわずらっている人が他人のタバコの煙を吸わされると、運動能力が2割から4割落ちます。動脈がちぢんでほそくなる度合いは、主流煙よりも副流煙を吸い込まされたときの方が大きくなります。また酸素をはこぶ血液のはたらきをじゃまする一酸化炭素は、タバコを吸っているときよりも灰皿の上でいぶっているときの方が多く出ます。

 また受動喫煙により年間3千名が肺ガンで死んでいることがEPAの研究で明らかになっています。この研究報告では主流煙や副流煙をアセトンにとかして濃縮したものをネズミの皮膚にずっとぬると、乳頭腫というできものやガンができるという実験結果も紹介しています。この研究報告はタバコを吸い始める年令が低いほど肺ガンになりやすく、禁煙して年数がたてばたつほど肺ガンの危険がへるため、タバコにはガンを作り出すとともにガンの進行をはやめるはたらきがあると断定しています。

 さらにフォンサム氏らなど多くの研究の結果から、結婚した相手の吸うタバコの煙によって肺ガンで死ぬ危険が高まることも確実であるとのべています。最近肺の病気以外で死んだ患者の肺を調べてみると、タバコを吸う夫と結婚したタバコを吸わない女性の気管支に「前ガン状態と考えられる変化」があると報告されました。あるすぐれたケース・コントロール研究ではタバコを吸わない人の肺ガンの17%がこどものときの受動喫煙が原因と考えられると結論づけています。

 1993年にアメリカでおきた1万3500人の子宮頚ガンの30%はタバコでおきたと考えられます。子宮頚部ガンは主流煙でも副流煙でもおきることがわかっています。タバコを吸う女の人の子宮頚部の粘液からタバコの煙にふくまれる発ガン物質などがたくさん見つかっています。

 10代の喫煙者は600万人おり、13才未満のこどものうち10万人はタバコを吸うとみられます。タバコの煙は、こどもは言うまでもなく胎児にまで大きな被害をあたえます。まだ肺が未成熟で成長途中にある胎児や乳幼児はタバコの煙の毒にとても弱く、このときに受けたキズは大人になってからとても大きなわざわいをもたらします。最近の調査ではタバコを吸う母親の流産率はとても高く、無事に生まれたとしてもタバコを吸わない母親のこどもより体重が200グラム軽くなります。

 父親が妊婦のそばでタバコを吸っても体重の足りない赤ちゃんが生まれます。さらにタバコを吸う母親のこどもはタバコを吸わない母親のこどもより死産や新生児死亡が33%多くなります。そればかりでなく妊娠中タバコを吸っていた母親から生まれたこどもは、乳児期をすぎてもからだの発育や知的能力の発達がおくれることがはっきりしています。

 1992年のEPA報告では、たくさんの研究調査をレビューした結果、生後18カ月までの乳幼児のうち毎年15万〜30万人が環境タバコ煙にさらされたために気管支炎や肺炎などの下気道の感染症にかかっていると結論を出しました。さらに環境タバコ煙にさらされているこどもは浸出性中耳炎が多く、鼻やのどの刺激症状が多く、肺のはたらきも程度は軽いがあきらかに悪くなっているとのべています。

 また環境タバコ煙にさらされると気管支喘息の発作の回数と重さがますこともあきらかになりました。EPA報告は、毎年アメリカの気管支喘息児のうち20万〜100万人が環境タバコ煙にさらされたために病状が重くなって苦しんでいること、さらに環境タバコ煙にさらされたことにより新たに気管支喘息を発病するこどもが数多くいると言い切っています。アメリカでは1日10本以上タバコを吸う母親をもつこどものうち1年間に2600人があらたに気管支喘息になるとみられています。

 EPA報告ではタバコを吸う母親から生まれたこどもは、生まれてから1年以内に乳幼児突然死症候群で亡くなる危険が大きいとのべた研究報告のレビューも行っています。

 

[注11]California Environmental Protection Agency(1997). Health Effects of Exposure to Environmental Tobacco Smoke:Final Draft for Scientfic,Public,and SRP Review. Office of Environmental Health Hazard Assessment,California Environmental Protection Agency.

⋯ETSは部屋のなかの空気をよごす主役です。タバコを吸う場所がどんどん制限され、ETSの健康被害がどんどん知られるようになってきましたが、とくに赤ちゃんやこどもが家庭においてETSにさらされることはひきつづき公衆保健上の問題となっています。ETS曝露でおきることが確実な病気はたくさんあります。表にETSによっておきることが確実に証明された発育障害・呼吸器疾患・ガン・心臓病などの病気をしめしました。それらにはSIDSや心筋梗塞といった命をうばう病気、小児喘息などの慢性のおもい病気などがふくまれています。こうした病気にくわえて可能性はあるが断定のためにはさらに研究が必要な病気もあります。これには自然流産・子宮頚ガン・おとなの喘息の悪化などがふくまれます。

 

[注12]California Environmental Protection Agency(1997). Health Effects of Exposure to Environmental Tobacco Smoke: Final Draft for Scientfic, Public, and SRP Review. Office of Environmental Health Hazard Assessment, California Environmental Protection Agency.

⋯ETS曝露によってわずかしか推定相対リスクのふえない病気もありますが、それらの病気はもともととても多くの人々のかかる病気なので、ETSによって病気になる人の実数はとても多くなります。非喫煙者の心臓病(心筋梗塞)の死亡率はETSにさらされると1.3倍高まることが多くの研究からあきらかになっています。これはETSにさらされる非喫煙者を一生観察するとそのうちおよそ1〜3%がETSが原因となった心筋梗塞で死ぬことを意味しています。カリフォルニア州では1年におよそ4千人が受動喫煙が原因となった心臓病で死ぬことになります。ETSにさらされると体重のたりない赤ちゃんが1.2〜1.4倍生まれやすくなるということは、家庭や職場でETSにさらされているタバコを吸わない妊婦さんの1〜2%がそのために体重のたりない赤ちゃんを生むことになり、カリフォルニア州では1年に1200〜2200人の赤ちゃんがこの被害をうけています。ETSにさらされると気管支喘息が重くなり(リスク比1.6〜2)、カリフォルニア州では年間4万8千〜12万人のこどもがこの被害をうけています。こどもの中耳炎(リスク比1.62)と幼児の肺炎・気管支炎(リスク比1.5〜2)などの呼吸器疾患では受動喫煙の被害はもっと大きくなります。ETS曝露は気管支喘息を発病させます(リスク比1.75〜2.25)。これはETSにさらされるこどもの0.5〜2%がETSによって気管支喘息を発病することをしめしています。カリフォルニア州では年間120人がETSによるSIDSで亡くなっている可能性があります(リスク比3.5)。これは家庭でETS曝露をうけている赤ちゃんの0.1%がETSにより突然死していることになります。生涯リスクとしてみるとETSにさらされている非喫煙者の0.7%が肺ガンで死ぬ可能性があります(リスク比1.2)。副鼻腔ガンのリスク比は1.7〜3.0ですが、被害者数を推計するためには、まだ資料が不足です。

 

[注13]Smith GD Phillips AN(1996). Passive smoking and health:should we believe Philip Morris's“experts"?  Brit.Med.J 313:929-33.

⋯配偶者(この場合夫)の喫煙を受動喫煙曝露の指標にすると、受動喫煙曝露と肺ガンリスクの関連を過小評価してしまうことである。(夫婦ともに非喫煙者であると申告している場合)リー氏はタバコを吸わない配偶者(この場合夫)の喫煙状態が誤分類されていないかだけを問題とし、そのようなことがあっても影響はほとんどなく「今後無視してもよい」と述べている。この主張から抜け落ちているのは、非喫煙者に肺ガンをおこす危険因子は環境タバコ煙を吸い込むことであり、ただ単にタバコを吸う者と結婚することではないということである。肺に吸い込まれた環境タバコ煙の量を結婚した相手の喫煙習慣で表すことははなはだしく大ざっぱな近似値と言わなければならない。配偶者がタバコを吸うといっても、たとえば、家の中で吸うかそれとも家の外だけで吸うか、家族のいる居間で吸うのか、ひんぱんに遊びに来るタバコを吸う友人がいるかどうかなどによって、タバコを吸わない配偶者が吸い込まされる環境タバコ煙の量は左右される。また結婚相手の喫煙習慣に関係なく、外出すると家庭以外の場で環境タバコ煙にさらされることもある。肺ガンと受動喫煙の関連の強さを配偶者の喫煙状態と肺ガンの関連という荒く大ざっぱな指標で代用するならば、それはあるべき関連を過小評価したことになる。配偶者の喫煙状態という指標は、ある個人の吸い込んだ環境タバコ煙の総量の真の値からかなりかけ離れた近似値であるため、あるべき関連の過小評価の度合いは非常に大きくなる。

 

[注14]Doll R, Peto R(1994).Mortality in relation to smoking:40 years' observations on male British doctors. Brit Med J.309: 901-911.

 

[注15]太田勝正、青木芳郎(1993):児童の胸部X線検査における被曝線量とそのリスク,別冊医学のあゆみ(メディカル・トピックス第13集)p.162.

 

[注16]岩井和郎(結核予防会結核研究所) :ディーゼル排ガス粒子の肺癌リスク−排ガスのもつ別の危険性、別冊医学のあゆみ (メディカルトピックス第19集)、1994、p.155.

 

[注17]日本国内アスベスト濃度分布(1985年環境庁)

 

地域 石綿濃度(本/cc)
内陸山間地域 0.00043
住宅地域 0.00104
商業地域 0.00142
廃棄物処分工場周辺 0.00316
解体ビル周辺 0.00324
蛇紋岩採石場周辺 0.02〜0.07
石綿工場周辺 0.0015-0.0393

 

 

[注18]アスベスト曝露(5μm以上繊維0.01本/cc)による悪性腫瘍生涯リスク(大阪成人病センター森永謙二氏)

 

       肺癌 悪性中皮腫   

 

      54     156    210 

      16     164    180 

            <単位は人:10万対>

 

[注19]U.S.Department of Health and Human Services(1986).The Health Consequences of Involuntary Smoking. Report of the Surgeon General. DHHD Pub No (PHS) 87-8398. Public Health Service, Office of the Assistant Secretary of Health, Office of Smoking and Health.